鮭のおにぎり100

“鮭おにぎり”no.41〜50までの10レシピをまとめました。
今回は秋編。
1つ目のポイントは新米です。おにぎりと銘打つからには、避けて通れない“米”の存在。この難問打開にヒントを与えてくれたのが、縁あって私の手元に届いた数種類の新米たちです。それぞれの米を味わい、特徴を知るうちに、おのずと鮭との相性が見えてきました。
2つ目のポイントは、きのこです。生のきのこを炊き込む、煮る、干したきのこをもどす…きのこの調理法も多岐にわたり、学びながらの楽しいチャレンジでした。気づけば10月が終わり、秋鮭たちが北日本沿岸に続々と里帰りをしています。


2019年秋10

vol.51 天日干米と晩菊漬と時鮭のラグビー観戦おにぎり
 
築地4丁目交差点角の共栄会一階入口右側に、秋山商店という漬物屋さんがある。
 棚田百選に指定された山形県朝日町産の天日干し棚田米(コシヒカリ)を売っていて、おにぎりも作って売っている。
 
「天日干しのお米は、やはり美味しいよ」
「どんなふうに?」
「ギュッと力が詰まっている感じ」
「よし、買った!」
 
おにぎりで合わせるのは、お米と同じ山形県の漬物「晩菊」。
晩秋の菊花に、春から秋までの野菜・山菜を十種加えて漬け込むという。
晩菊はかすかな酸味と苦味が幾重にも重なり合う、深みのある味。
 
上品なお漬物に合う鮭は、上品な時鮭。
 
天日干米は…
重力を感じる。
一粒一粒が手を握り合って、おむすびに凝縮している。
ラガーマンのスクラムみたいだ。
ラグビーボールは鮭。
米と米にパスされながら、口へと運ばれる。
 

ラグビーワールドカップ2019 対スコットランド戦。
大活躍の稲垣選手が、ころがるおにぎりに見えるのは、私だけか!?
 


vol.52 青森で習った秋鮭の焼きおにぎり
 
青森には、各地に、おにぎり名人がいるという噂を聞いた。
 
青森市内の名人は、お惣菜屋のカッチャ(おかあさん)で、鮭を混ぜたご飯を握り、ゴマをまぶしてから七輪で焼いている。
陸奥湊駅前朝市の名人は、食堂のカッチャ(おかあさん)で、筋子のおにぎりを作っているらしい。
 
館鼻岸壁の朝市にもおにぎり名人がいて、
露天に並ぶ、各家のカッチャが握ったおにぎりのいろいろ。
 表面に味噌を塗った焼きおにぎりを見つけたので買う。
「コツ? 握ってしばらくおいてから焼くんだわ」
 
作ってみる。
合わせ味噌にみりんを混ぜる。
それを薄く塗って、火で炙る。
片側にも、薄く塗ってひっくり返して、うっすら焦げ目をつける。
 
せっかく炭を熾したのに、やっぱり崩れる。
鮭は、うんと細かくほぐすか、芯にいれるか?
味噌は唐辛子を混ぜるか、ゴマ油で溶くか…。
焼きおにぎり名人への道は遠い。



 
vol.53 あきさかり(福井)・ずいきの甘酢漬け・紅鮭のおにぎり
 
福井の友人から新米が三種、届いた。
米の品種や産地による違いは興味深いが、これまで深入りを避けていた。
だが、縁あって巡り合ったお米、鮭おにぎりとの相性について感想を書いてみたいと思った。
 
届いたお米は「かみなか農楽舎」の作で、第一弾は「あきさかり」である。
鮭は紅鮭。
ともに握る具は、同じ福井産の赤芋茎の甘酢漬け「すこ」。
芋茎(ずいき)は八頭の茎で、湯がいてから干して保存食とし、使うときに水に戻してから調理するので、たいそう手間がかかる。
しょきしょきとした食感が面白く、甘酸っぱさにさそわれて、つい箸が伸びる。
おにぎりには、細切りにして、紅鮭と和えたら、紅葉みたいな彩りになった。
 
あきさかりは、いくら食べても食べ飽きない。
軽やかな甘みがあるので、鮭のしょっぱさと相性が良い。
キヌヒカリとコシヒカリの長所を併せ持つ品種だそうで、
炊きあがりがツヤツヤ。
 
真っ白な新米は食欲をそそる。
またひとつ、もうひとつと、盛った皿に手が伸びて、
あっという間に終わるみんなの昼食であった。



 
vol.54 平茸と秋鮭のおこわおにぎり
 
市場の八百屋さん、藤本商店の店先を覗いていたら、
「平茸は、お吸い物にすると、美味しいのよ」
「じゃあ、炊き込みご飯は…」
「もちろん!」
 
生の平茸(ひとつかみ分)を炊き込む時は、あらかじめ煮ておく。
酒(大さじ2)・みりん(大さじ1.5)・醤油(大さじ1)・砂糖(小さじ1)・塩(ひとつまみ)で軽く数分煮て、
しんなりして汁気をほとんど吸い込んだ状態になったきのこを、
研いだお米(2合)に合わせて炊く。
今回は、水気の多いきのこを具に加えたため、米ともち米を半々にしてみた。
水加減は、気持ち少なめで。
 
鮭は、脂が多くない秋鮭。
よく「買った鮭がしょっぱくて、どうしたらいい?」
と聞かれるが、そんな時は、焼きほぐしてご飯にあわせれば良い。
かなり、しょっぱくても大丈夫。
しょっぱい鮭は生臭くないので、年配の方にも喜ばれる。
辛口一切れでご飯2合が適量である。
 
おにぎりは、子供でも食べられる大きさで握ると、2合で8つできる。
ひとつ出来上がりで80〜100gが目安。
大人用は、その倍の大きさにしている。
 



vol.55 丹波の黒豆と時鮭のおにぎり
 
おせちの代表格、“黒豆”に使われる豆は、この時季収穫される。
煮豆を作る、乾燥させた豆が市場に出回るのは、まだひと月以上先だ。
生の豆は、枝ごと束ねられ、秋のほんのひととき、市場にお目見えする。
最高峰は丹波篠山産。ぎんなんほどの大きさで、はちきれんばかりの実は丸く、薄皮が黒い。
煮豆の漆黒が、薄皮の黒色に由来することは、築地に来るまで知らなかった。
 
ご飯の炊きあがり10分前に、鞘から取り出した薄皮ごとの黒豆を投入し、かきまわさずに、蒸らして仕上げる。
黒豆の馥郁たる香りが、早朝の台所に広がる。
 
鮭は、脂ののった時鮭。
天然鮭の上品な脂が、味の濃い黒豆に見事にマッチする。
 



vol.56 こしひかり(福井)・おぼろ昆布・時鮭のおにぎり
 
福井から届いたお米の第二弾は「こしひかり」である。
こしひかりは、もっちりした強い粘り気があり、冷めても固くなりにくい。
店でも早朝握ったおにぎりを昼過ぎに食べる場合は、12時間以上経過してもまったく固くならないこしひかりを使用している。水っぽい柔らかさとは異なる、粘りの強さが特徴だ。
 
福井産のおぼろ昆布を組み合わせてみる。
おぼろ昆布を巻くと、粘り気の少ない米は、水分を吸い取られてバサバサとしてくるが、コシヒカリなら粘度を保って昆布に負けない。
昆布の原料は北海道産で、江戸時代から北前船と呼ばれる福井の商船は、北海道はじめ北の産物を、日本海ルートで関西に運んでいた。そんな歴史が、昆布商をはじめとする福井の海産物問屋の繁栄につながったそうだ。
 
鮭は北海道産の時鮭。おぼろの淡い色合いと、時鮭の桜色は、純白な新米と淡いグラデーションを呈し、上品な一品に仕上がった。
 



vol.57 海峡サーモン鮭缶と“晴天の霹靂”米の、オール青森…炊き込み飯
 
先月、青森県下北半島に「海峡サーモン」を訪ね、
鮭の育成に携わる人々の長年の創意工夫を伺った。
その成果である鮭缶で、ぜひ、おむすびを作りたいと思った。
 
合わせる米は、青森産の「青天の霹靂」。
ネーミングも素晴らしいが、約10年かけたという寒冷地での品種改良の苦労がしのばれる。
ふやけにくいように思うので、炊き込みのおにぎりには相性が良い。
 
最近、缶詰の炊き込み飯が流行っている。
鮭缶での作り方のポイントは…
1)具を入れすぎない。(4合で一缶使用)
2)汁は炊き込む。
3)身は炊きあがりに加え混ぜる。
3)水煮の場合は、塩を足す。
4)香り付けがポイント。
今回は生のディルを使う。
ディルは魚全般と相性が良く、口当たりがしなやかなので、カルパッチョに合う。
だから、鮭おにぎりにもピッタリなのだが、もう少しパンチが効いた香草でも良いかと思う。
セロリあるいはパクチー。
次回の課題ということにしよう。
 
 


vol.58 ひとめぼれ(福井)・干しえのき・秋鮭の炊き込みおにぎり
 
福井から届いたお米の第三弾は「ひとめぼれ」である。
ひとめぼれを一言でいうと「優等生タイプ」だそう。
個性派というより、見た目・甘み等の平均点が高い。
口当たりも柔らかいとなると、炊き込みに適している。
 
以前から、基本の秋鮭の炊き込み飯に、何を合わせようかと考えていたが、福井産の干しえのき茸に出会い、答えが出た。
数年前に、えのき茸を干すと栄養価が上がるとブームになったことがあるが、よく干されたえのきからは、良いだしが出る。
干しえのきと昆布を一晩、水に浸し、戻し汁ごとえのきを研いだ米に載せて、水加減を少し多めに調整し、昆布を上に置き、その上に鮭の切り身を載せて炊飯する。
切り身にお酒を少しふりかけるだけで、調味料は何も加えない。
炊きあがったら、鮭はほぐして混ぜ、おにぎりにする。
 
ご飯が干しえのきの薄茶色に染まり、まさに秋色ご飯。
若狭町熊川宿の宿「八百熊川」さん、「かみなか農楽舎」さん、
福井の味を楽しませていただき、ありがとうございます。
もう、そちらは紅葉ですか?



 
vol.59 松茸ご飯と時鮭のおにぎり
 
秋のキングオブ鮭おにぎりは松茸で。
 
松茸ご飯を日本酒少々を加えて炊き、他に何も加えない。
香り良さとしなやかな歯ごたえは比類がなく、ただもう松茸である。
 
時鮭の焼きほぐしを合わせる。
噛むほどに、口に良質な脂が広がる時鮭。
上質なこの鮭なればこそ、松茸と互角に渡り合う。
 
山の王者松茸、鮭の王者時鮭。その底力、恐るべし!
 



vol.60 超辛紅鮭のおにぎり大葉の胡麻油醤油漬包み

「お客様から、教わったんだけど…」
ワクワクするフレーズだ。
青果の藤本商店のおかみさんが、野菜を新聞に包みながら
「大葉をね、余ったらゴマ油と醤油で漬けておいて、熱々のご飯に載せて食べるんですって、貴女も作ってみる?」
「もちろん!」
大葉を、まずゴマ油で漬ける。油で葉をコーティングしたら、醤油を加える。
これを、タッパーに保存しておく。
この大葉一枚、ご飯に載せただけで、よく知っている味なのに、味覚の扉がバーンと開く、脳裏のトライアングルが鳴り響く。
そこに鮭を加えたらどうなる!?
超辛口紅鮭の焼きほぐしを和えて、おにぎりをにぎる。
上に、大葉を一枚、裏返してまた一枚。
押し花を貼り付けるように、丁寧に。
お昼に、巻いたラップを広げたときの芳香。
ご飯・鮭・大葉・ゴマ油・醤油が、一口目にして対等に渡り合う。
味覚の聖五角形。
他に何もいらない。